”御乱心の時代”に強く志向されたロック色の極めて強いアルバムとなっている。それはデジタルへの挑戦という形で追求された。

デジタルとの格闘の「戦友」となったのが親友で「わがままヨッちゃん」こと甲斐よしひろである。クレジットでは甲斐よしひろがプロデュースで中島みゆきがCO-PRODUCEDとなっているが、中島みゆきが1・5・6・8曲目を、甲斐よしひろがその他を担当している。ただ、甲斐よしひろは全ての曲のレコーディングに立ち会っており、そのことから甲斐よしひろが全面プロデュースとしたのだろう。

中島みゆきが「聴きまくった」洋楽のアルバムで印象的だった音を作っていたというエンジニアのラリー・アレキサンダー(ダイアナ・ロスやヒューイ・ルイスをてがけていた)がミックスを担当した。

レコーディングはニューヨークの7つのスタジオで行われており、このことからもデジタルへのあくなき挑戦が見て取れる。

当時のインタビューで中島みゆきは「こんなやり方を始めたら今まで書いた曲は全部パアですね」と言っている。それ程、デジタルの衝撃を受けたことがうかがえる。

題名は、「私にとって異常なことじゃないわ、普通の体温よ」という意味で付けられたのだろう。

ジャケットは夜のビル街で男の手が上から、女の手が下から伸び、男の手が女の手を軽く握り女の手は軽く開いている。甲斐よしひろと中島みゆきととってもあながち間違いではないだろう。歌詞カードは題名だけ活字で、歌詞は中島みゆきの手書きになっている。決して達筆とは言い難いが、自由奔放な字である。

編曲は実に5人が担当していて、1曲目を後藤次利、2・9曲目を久石譲、3・4・7曲目を椎名和夫、8曲目を萩田光雄、6曲目を船山基紀が担当している。

このアルバムのオリコン最高位は1位。
題名 歌詞
曲調
解説
あたいの夏休み
ロック
イントロから続くシンセサイザーがいきなりこれまでの曲になかったデジタルを強調している。盲目歌手として有名なスティービー・ワンダーが演奏している。バックコーラスまでもデジタル加工しており、このアルバムの中でも一番デジタル音が全面に出た曲であり、デジタルへの新しい試みをいきなり披露している。
最悪
ロック
きしむようなギターの音が耳障りなほどのへヴィ・ロック。だが、マリンバを想起させるシンセサイザーの音が美しく、複雑な音の世界を作り出している。男性の悲嘆にくれる気持ちを歌っている。
F.O.
ロック
この歌でも中島みゆきが男という動物をよく理解している箇所がある。「男はロマンチスト憧れを追いかける生き物」「僕の望みはフェイドアウト」それに対し女性は「夢のないことばかり無理に言わせる魔物」「君の望みはカットアウト」。中島みゆきが女性というものを冷酷に見据えていることは「魔物」という単語に現されている。
毒をんな
バラード
イントロの音は間違いなくマリンバだとクレジットを見てもマリンバの項はなく、シンセサイザーしかない。確かにシンセサイザーでもその音は出せるだろうがここまでデジタルにこだわるか?という疑問は残る。女を「をんな」と書くのは古語の用法である。いにしえから変わらぬ女の性を歌っている。
シーサイド・コーポラス
フォーク
中島みゆきが弾くアコースティック・ギター1本による、久々の純粋なフォークである。歌詞にそれ程の意味はない。このアルバムの中での謂わばデジタル音からの「休憩曲」、一服の清涼剤にとなっている。
やまねこ
ロック
休憩を終え激しいロックン・ロールである。みゆきとしては初めて思い切って声を張り上げて歌っている。エレキ・ギターといい、シンセサイザーといいデジタル加工された音が新鮮である。女を山猫に例えている。その爪で男を愛しても傷つけてしまう女の不幸を歌っている。
HALF
バラード
中島みゆきは抑えた声で歌っているがサビの部分では思い切って声を張り上げている。「HALF」とは、キリスト教で人間は最初は男と女の区別がなかったが、神様が一人の人間からアダムという男とイブという女を作ったという神話から、男も女も「半分」でしかないという意味。
見返り美人
ロック
このアルバムでは唯一エコーをかけている。サビの部分ではロックなのに抑えた声で歌っている。「見返り美人」とは菱川師宣筆の浮世絵「見返り美人図」から取ったもの。立ち去る女が呼び止められたのかと顔だけを振り返る。歌詞の中に「見返り美人」「八方美人」「薄情美人」と「美人」が三通り出てくる。失恋すると女は美人になってゆくのか。
白鳥の歌が聞こえる
バラード
イントロのシンセサイザーの音がここまで聴いてくると心地よくなる。「白鳥の歌」とは「死」という意味である。男の死期が迫っているというのにやさしさしかあげられない。しかし、白鳥たちは「たぶん笑っているよ」。決して「死」は不幸とばかりとは言えないということか。
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