意味深なアルバムタイトルが続き、ついに中島みゆきが生まれた。リリース時、”中島みゆきが産んだのは中島みゆきだった”というキャッチコピーが付けられた。このアルバムでみゆきは自身の音楽性の一応の完成形を生み出すことが出来たから、こういうタイトルをつけたのであろう。
私が中島みゆきのアルバムの中で最も好きなアルバムの一つである。

この年3月30日、中島みゆきは八年間続けた「オールナイト・ニッポン」のDJを降板する。
番組を降りる一ヶ月前に中島みゆきは「音楽に走る」と宣言する。

プロデュースは中島みゆきと前作『36.5℃』で3曲アレンジした椎名和夫。エンジニアは前作の同じラリー・アレキサンダー、ミックスもニューヨークのパワー・ステーション・スタジオで行われた。

『36.5℃』ではデジタルによるへヴィ・ロックの追求という側面が強かったが、このアルバムではデジタルサウンドの普遍性を求めている。

このアルバムで中島みゆきは初めて、他人に作曲を任せている曲が2つある。椎名和夫による『湾岸24時』と7甲斐よしひろによる『仮面』である。この二人は共に『36.5℃』で曲作りを一緒にした仲間であるから、いかにも中島みゆきらしい曲を作っている。また、中島みゆき自身も他人に曲を委ねることで自分がどう見られているのかを知る意味もあったのだろう。

『はじめまして』からこのアルバムまでを中島みゆきは”御乱心の時代”と後に称している。シンセサイザーを多用し、強いロック志向とデジタルの追求という音楽性を否定するようになったのは、瀬尾一三氏との出会いである。以降のアルバムはずっと瀬尾氏を編曲に起用している。 

編曲は、1・2・3・5・6・7・9曲目を椎名和夫が、4・8曲目を久石譲が担当している。

このアルバムのオリコン最高位は2
位。
題名 歌詞
曲調
解説
湾岸24時
ロック
イントロのドラムを思わせる音はシンセサイザーである。面白いことに、この曲の演奏に使われているのはシンセサイザーとギターのみである。シンセサイザーの多様性には驚くが私には心地よい。中島みゆきの声にはエコーがかかり、シンセサイザーの音に調和している。過ぎ去った男との別れへの未練から時の流れを停めてと願っている。
御機嫌如何
カントリー
この曲はシンセサイザーのみの演奏となっている。離れ離れになっても変わらないと誓ったはずなのに、男の心は離れていく。しかし、この歌では女はあっけらかんとしている。泣いている日もあるし、笑っている日もある。「女は意外と 立ち直れるものなのでしょう」みゆきはこうした歌詞を明るく歌っている。
土用波
ジャズ
この曲では、エレキギターが効果的に使われている。シンセサイザーも含めて7つの楽器が使われる。「土用波」とは夏の土用の頃、南海上の台風から押し寄せる高波のこと。何もかも未練を残さぬように「土用波」にさらわれてしまえ。
泥は降りしきる
ブルース
イントロから最後までアコースティック・ギターのアルペジオが続く。シンセサイザーは表立っておらず、ベースやサキソホンなどの楽器が全面に出る。もっとも楽器はこの4つのみである。愛されていると思っていた女が、男に他の女がいることを知って、精一杯の強がりを言っている。中島みゆきはまるで自嘲気味に喋っているように歌っている。
ミュージシャン
カントリー
シンセサイザーの軽快な演奏で始まる。このアルバムの中で、リズム感から言えば一番好きな歌である。リスナーへのメッセージソング。「長生きは辛いことじゃないはずよ」のフレーズはアルバム『寒水魚』収録の「傾斜」の延長線にある。転調する「12才の頃 野球選手になりたかった・・・(中略)だけど 8回の裏 投げ方を忘れてマウンドを降ろされる」の箇所は夢物語であるが「8回の裏 投げ方を忘れてマウンドを降ろされる」は何を比喩しているのかが分からない。
黄色い犬
ジャズ
イントロの「Yes I'm Yellow」のリフレインは、私たち日本人が黄色人種を指している。4回のリフレインの後、またシンセサイザーの音が流れる。中島みゆきの歌としては珍しく「もてる」女を歌っている。しかし、そんなに大した女じゃないわよ自己卑下している。「Yes I'm Yellow」が計24回も繰り返される。民族への誇りを訴えているのか?エンディングのエレキ・ギターが味わい深い。
仮面
ジャズ
パーカッションとサキソホンが効果的に使われている。。「強い女」が表現されています。文無しから「羽振りの良かった時代」を経て今では落ちぶれている男。この男に「母性愛」を覚えながらも早く立ち直って欲しいと男に甘い慰めも同情もかけない。
クレンジングクリーム
ボサノバ
蛇足ながら、クレンジングクリームとは化粧を落とすクリーム。クレンジングクリームを一塗りするするたびに「いやな女」「ずるい女」「嘘つき女」「醜い女」「汚れた女」「卑しい女」「老いた女」「しつこい女」「馬鹿な女」「安い女」「邪魔な女」「退屈な女」「淋しい女」「捨てられた女」「いらない女」が現れる。よくもまあ、これだけ並べたものだと感心する。
ローリング
バラード
ピアノのスローなイントロがいかにもラスト曲を感じさせる。人生歌。生きていくうえで誰しも傷つかない人はいない。が、深刻に考えるな。人生は所詮草も生えない荒野なんだ。
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